令和6年度税制改正で最も注目を集めた「定額減税」。
賃金上昇が物価高に追いついていない状況で負担を緩和し、持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から設けられた制度ですが、恒久的な措置ではなく、所得税・個人住民税ともに1年限りとなります。
今回は、制度の概要について詳しく見ていきたいと思います。
1.対象者
令和6年分の所得税の納税者である居住者※1で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額※2が1,805万円以下である方が対象です。
給与収入のみの場合、原則、給与収入が2,000万円以下の方が対象となります。
※1 居住者...国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいう。
※2 合計所得金額...事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得、給与所得、雑所得(公的年金等に係る所得など)、一時所得、譲渡所得等の各種所得を合計した金額(純損失または雑損失等の繰越控除を適用する前の金額)のことをいいます。
2.金額
所得税 | 住民税 | |
本人 | 3万円 | 1万円 |
同一生計配偶者または扶養親族 | 1人あたり3万円 | 1人辺り1万円 |
例えば、本人・専業主婦の妻・子供2人(高校生と小学生)の4人家族の場合、
本人の給与から、所得税12万円(3万円×4名)住民税4万円(1万円×4名)合計16万円の減税が受けられることとなります。
ちなみに、「同一生計配偶者」「扶養親族」の要件は、以下の通りとなります。(青色事業専従者等を除く)
◆同一生計配偶者◆
・居住者の配偶者
・居住者と生計を一にするもの
・合計所得が48万円以下(給与所得のみの場合は収入が103万円以下)
◆扶養親族◆
・居住者の親族(配偶者を除く)並びに里子及び養護受託老人
・居住者と生計を一にするもの
・合計所得が48万円以下
配偶者控除や扶養控除と異なり、居住者自身の合計所得金額の要件や、親族の年齢要件はございません。
上記の控除の対象者と、定額減税の金額計算上の人数はイコールにならないので注意が必要です。
また、令和6年分の給与収入に係る源泉徴収税額から控除しきれない額があった場合でも、令和7年分に繰り越すことはできません。
ただし、低所得者や定額減税の恩恵を十分に受けられない者に対しては、別途、給付等が実施予定です。
3.定額減税の実施方法
ここからは、具体的にどのように減税が行われるのか見ていきましょう。
●住民税
普通徴収(個人事業主等) | 特別徴収(給与から天引きの場合) |
定額減税前の税額をもとに算出した第1期分(令和6年6月分)の税額から減税し、第1期分から減税しきれない場合は、第2期分(令和6年8月分)以降の税額から、順次減税します。 | 令和6年6月の住民税は特別徴収されません。 令和6年7月~令和7年5月まで、減税額を差し引いた金額が11か月間で特別徴収されます。 |
給与担当者 実務のポイント
基本的には、各市区町村が計算を行います。ただし、例年は、6月分から住民税の控除金額が変更し、7月分以降は同額となりますが、今年のみ6月は控除なし、7月以降は通知書に合わせて天引き・納付手続きが必要です。
●所得税
個人事業主 | 給与所得者・年金所得者 |
第1期分予定納税額(7月)から本人分に係る定額減税額を控除します。扶養親族等の控除を合わせて行いたい場合は、予定納税額の減税申告書の提出が必要です。 予定納税額がない場合は、定額減税を実施するのは令和6年分の確定申告のタイミング(令和7年2月~3月)となります。 | 令和6年6月1日以降の給与・賞与より控除される所得税および復興特別所得税(所得税等)から特別控除相当額を控除します。 控除しきれない分は翌月以降に繰り越します。 |
給与担当者 実務のポイント
以下、2つの事務が必要となります。
①令和6年6月1日以降に支払う給与等に対する源泉徴収税額から定額減税額を控除する事務
具体的には、以下の手続きを行う必要があります。
- 前年の年末調整時に回収した「扶養控除等申告書」や「配偶者控除等申告書」などから従業員ごとの定額減税額を算出する。(ただし、令和6年6月1日以降最初の給与支払日までに「源泉徴収に係る申告書」が提出された場合には、控除の対象に加えることが可能です。)
- 各月における定額減税の繰越額を従業員ごとに管理する。
- 源泉所得税の納付時には定額減税額を集計し納付すべき税額に反映させる。
- 令和6年6月1日以降に交付する給与明細書等に定額減税額を記載する。
※令和6年6月2日以降入社の場合、特別控除の額について年末調整時に控除することとし、各給与等支払時における控除については行いません。
②年末調整の際に、清算を行う事務
年末調整においては、扶養控除等申告書などの書類により、年税額と定額減税額を再計算し、住宅ローン控除後の所得税額から、その所得税額を限度に、特別控除の額を控除することとなります。詳細は令和6年9月ごろ国税庁より公表見込みです。
4.調整給付について
定額減税は、住宅ローン控除を受けた後の所得税額が減税の対象となります。
そのため、所得税額や減税額によっては、減税額の恩恵をすべて受けられないことが考えられます。その場合は、調整給付という形で減税されなかった額が1万円単位で給付される見込みとなっています。
低所得者支援及び定額減税を補足する給付について 令和5年12月14日 内閣官房令和5年経済対策給付金等事業企画室
低所得者支援及び定額減税を補足する給付として、定額減税の実施と併せて以下の一連の給付を実施する。
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中略
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(4)調整給付納税者及び配偶者を含めた扶養家族に基づき算定される定額減税可能額が、令和6年に入手可能な課税情報を基に把握された当該納税者の令和6年分推計所得税額又は令和6年度分個人住民税所得割額を上回る者に対し、当該上回る額の合算額を基礎として、1万円単位で切り上げて算定した額を支給する。なお、令和6年分所得税及び定額減税の実績額等が確定したのち、当初給付額に不足のあることが判明した場合には、追加で当該納税者に給付する。
まとめ
今回は、定額減税の制度概要についてご覧いただきました。
企業の給与計算担当者にとっては、実務負担が増える部分もあり、早期に準備が必要となる重要な項目です。
Excel等で給与計算を行っていた場合、毎月の給与計算における定額減税の管理が難しくなるケースも想定されます。
この機会にクラウド給与計算システムなどの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
制度の内容やクラウド給与計算システムにご興味がある方は、ぜひ当事務所までお問合せください。
●●税務豆知識●●
定額減税は1人あたり「所得税3万円、住民税1万円」が基本!事業者の皆様は令和6年6月以降の源泉徴収事務の際に注意が必要です。